コアコミックス発行の漫画『夜分に吸血失礼します。』。吸血鬼になった中年サラリーマンの葛藤と、サイコな後輩との危ういかけ引きを、ネタバレありでご紹介します。
前話では、小夜さんは、後輩の山寺くんと取引関係になりました。こうして小夜さんをいいように扱う山寺くんは、一体どんな人物なんでしょうか。「夜分に吸血失礼します。」3話のあらすじ、感想、見どころのご紹介です!
【夜分に吸血失礼します。】3話あらすじ
3話では、表裏の激しい青年「山寺くん」が主役。主人公「小夜さん」の会社の後輩です。サイコパスのような言動の山寺くんは、ふだん一体何を考えているのか。彼の私生活や、心情が中心に描かれます。
物語は、山寺くんの自宅からはじまります。彼の自宅は、普通のアパートながら、質素で無機質。生活感のない様子に、彼が日常生活に興味をもっていないのがうかがえます。
吸血鬼に執着する山寺くん。彼が求めているのは、退屈な日常を彩る刺激なのです。
刺激を求めて泥沼に
小夜さんを吸血鬼にした「女の吸血鬼」を追う山寺くん。深追いしたために、手痛いしっぺ返しを食らいます。
山寺くんが向かったのは、夜の街。「女の吸血鬼」らしき人影を追い、治安悪げな路地を進みます。そして、見かけた女が吸血鬼かどうか、確かめようとする。その時、運悪くチンピラにからまれ、顔面を殴られます。
間一髪で逃げ切りますが、心中穏やかじゃありません。「自分が吸血鬼なら、あんな奴ぶっ殺せた」と、山寺くんは歪んだ表情。
退屈な日常への憂さが、もう爆発寸前になっているのが見てとれます。
ここは、彼の執着心の根源が、垣間見えるシーンでもあります。いわば、吸血鬼という非日常な刺激で、退屈な日常への憂さを晴らしたい。他人事のように思われますが、実際のところ、誰でも持っている気持ちです。
例えば、知り合いに嫌なことを言われたときや、通りすがりの人に、道をふさがれたとき。こっちも嫌なことを言ってやろうとか、舌打ちしてやろう、と思ったことはありませんか?仕返ししたい、見かえしてやりたい。そんな気持ちを抱いたことが、誰でも1度くらいは、あると思います。
やり場のない鬱憤がたまるとき。「どうにかして発散したい!」と思うのは、誰でも同じ。もちろん山寺くんも同じです。そう思うと、やり場のない怒りに苦しむ彼の気持ちに、少なからず共感するはずです。
山寺くんを救ったものとは
窮地を脱するも、山寺くんは、満たされない気持ちに心が歪んでいきます。そんな山寺くんを引留めたのは、小夜さんのバカ真面目さでした。
チンピラに追われて山寺くんが隠れたのは、ビルの屋上。そして、今にも落ちそうな状態。そこに現れたのは、小夜さんです。へらへらする山寺くんに、小夜さんが一喝。「死ぬような真似するな」と、自分の身を軽視する山寺くんを本気で怒りました。
ピンチな状態で出た、小夜さんの本音に注目です。ここで小夜さんは、気持ちと行動が矛盾している人物だとわかります。なぜなら、小夜さんは、山寺くんから血をもらう身。つまり、山寺くんの命を脅かしているのは彼自身なのです。したがって、山寺くんへの「死ぬような真似するな」という発言は、矛盾だらけなんですね。
それでもなお、本気で山寺くんの命を案じている、人として真っ当な小夜さん。
山寺くんのうすい感情に反して、小夜さんの気持ちの強さ。垣間見えるふたりの関係の重さに、グッとくる方も多いのではないでしょうか。
小夜さんに出会って変わったこと
退屈を嫌悪する山寺くんは、小夜さんをこれでもかと振りまわします。しかし本当は、小夜さんと関わることで、山寺くん自身も変わりつつあるのです。
ひき続き、ビルの屋上。小夜さんは山寺くんを引き上げようとしますが、あえなくふたりで落下してしまいます。死ぬか――と思われた、その時。なんと小夜さんが翼を生やし、空を飛びます。
ネオンに輝く夜の空を、ふたりで舞う。その光景を見た山寺くんの目は、今までにない輝きようです。地上に降り立つと、山寺くんの顔には満面の笑み。そして一言、「最高」とつぶやきます。
小夜さんと一緒にいれば、まったく違う世界を見ることができる。
それはきっと、憂さを晴らすどころじゃない。山寺くんは、そう期待するんです。彼は、人として真っ当とは言い難い。そんな彼が、小夜さんと一緒にいることで、変わっていく可能性が見てとれます。
ところがこのシーン。真逆のこともいえますね。小夜さんの方から考えてみてください。彼は、山寺くんを助けようとして一緒に落下して、吸血鬼の能力を発現させました。
つまり、小夜さんは、山寺くんをきっかけに、どんどん吸血鬼になっている。山寺くんと一緒にいることで、彼とは反対に、人の道を外れていく可能性があるんです。今後ふたりがどうなっていくのか、気になるシーンでもあります。
【夜分に吸血失礼します。】3話の見どころ
退屈への憂さが昇華する心情を描いた「夜分に吸血失礼します。」3話。見どころは、前話でサイコパスと思われた山寺くんの印象が、コロッと変わるところです。
3話のはじめ、山寺くんの負の感情に引き込まれました。彼は「見返したい、憂さを晴らしたい」といった気持ちで一杯。現代に生きていれば誰でも持ちうるストレスに、思わず引きこまれてしまいます。
ところが、小夜さんに救われた山寺くんは、一転。これまでの鬱屈した感情とはうってかわって、解放感に満ちています。「最高」とはしゃぐ笑顔に、思わずかわいいと思ってしまう方も多いはず。こんなふうにコロコロと、無邪気に感情が一転するようす。まるで子供のようじゃありませんか?
サイコパスで威圧的かと思いきや、意外にも子どもっぽい山寺くんの実態。はからずも、「幸せになってほしい」と、山寺くんを応援する気持ちが芽生えてしまうはずです。
【夜分に吸血失礼します。】気になる続きは?
山寺くんの気持ちがわかるようになって、彼と小夜さんのバディは、ますます魅力的になりました。
次話ではさっそく、ふたりに会社員としての困難が降りかかります。
相手は、取引先の社長。慣れている自分の会社ではなく、逃げ場はない。そして絶対に、吸血鬼とバレることはできない。アウェイな状況に、2人はどう対応するのでしょうか?次話で明らかになります!
今回ご紹介した、山寺くんの劇的な変化。こちらを味わいたい方には、「夜分に吸血失礼します。」3話を収録している、単行本1巻をオススメします!